財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
衣都が抱えていたものを受け止めきった律は、手を額にやり天を仰いだ。
「そういうことか……。まさか、隠し撮りされていたとはな……」
「心当たりがあるの?」
「俺の口からは言えない。こればかりは本人に聞いてくれ」
律はそう言うと、響の秘書として沈黙を守り続けた。
結局、最後まで真実は教えてもらえなかった。
片づけが大体終わると、逃げるようにして響のマンションまで送り届けてもらった。
(兄さんのバカ……)
聞いてみろと言われても、聞けるはずがない。
もし、写真は事実で、衣都とは偽装結婚だと肯定されたらどうしてくれよう。
物事をすべてはっきりさせることが、必ずしも正しいとは限らないのだ。
ため息をつきながら玄関の扉を開けると、響が出迎えに廊下を走ってやってきた。
「衣都、おかえり。随分と遅かったんだね。待ちくたびれたよ」
「帰るのが遅くなってごめんなさい」
響は衣都の肩を抱き、興奮した様子で捲し立てた。
「衣都を驚かせようと思って待っていたんだよ?本当はもっと早くに用意するべきだったよね」
何のことだろうかと首を傾げていると、リビングの扉が響の手によって開け放たれていく。