しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「君に受け取って欲しいんだ」
響はもったいぶるようにゆっくりと上目遣いでスツールに座る衣都を仰ぎ見た。
左手が持ち上げられ、薬指にスルリと冷たい感触が走る。
響が手を離すと、そこには美しい指輪が嵌められていた。
「こ、これ……!」
「うん、そう。婚約指輪だよ。こっそり作らせていたものがやっとできあがったんだ」
驚く衣都の顔を眺めた響は満足そうに、目を細めた。
衣都の胸は嬉しさでいっぱいになった。
薔薇をモチーフとした、華やかなデザイン。
大輪の薔薇の花びらの中央には、小指の爪ほどの大きさの美しいダイアモンドが輝いていた。
「綺麗……」
つい、左手を宙にかざして見惚れてしまう。
それにしても、サイズはいつ測ったのだろう。デザインだって、凝り性の響のことだから何回も試案を重ねたに違いない。
「気に入った?」
「はい、とても……。大事にしますね」
「衣都――」
響は衣都の名前を切なげに呼ぶと、そっと抱き締めてくれた。
宝物に触れるように慎重に。壊れ物を扱うように丁寧に抱きすくめられる。
衣都は響の背中に腕を回し、柔らかな抱擁に応えた。
……どうして、愛されていないと的外れなことを思ってしまったのだろう。
響の愛は時に激しい炎のように衣都を追い詰め、時にはそよ風のように衣都を優しくくるんでくれる。
変幻自在の愛のカタチ。
衣都はまだ、響から捧げられる愛の底を想像できないでいた。