財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
(もっと味わって食べればよかった……!)
チョコレートは口の中で溶けて、すぐになくなってしまった。
残ったチョコレートは、今度こそ大事に食べようと心に決める。
「今日の演奏、すごくよかったよ」
「よかったあ……!沢山練習したんです」
響に褒めてもらえると、勤務終わりと休みの日に、自主練を重ねてきた努力が報われたような気がする。
衣都はすっかりご機嫌になった。
「おば様にも演奏を褒めていただいたんです。響さん、今日はお会いにならなかったんですね?」
「母さんと一緒にいた女性と顔を合わせると面倒だったからね。隠れていたんだ」
響はわざとらしくため息をついてみせた。
衣都は困惑した。面倒とはどういう意味だろう。
「あの女性は響さんとどういうご関係なんですか?」
「……彼女は僕の婚約者候補だよ」
頭をがんと殴られたような衝撃が走る。車の中でなかったら、その場に立っていられなかったかもしれない。