財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「肝心なことをすべて胸の中にしまってしまうのは君の悪い癖だ!」
反論しようとして、ぐっと言葉を飲み込む。
自分の意見を言うのが苦手な衣都の傍らに立ち、いつも気持ちを代弁してくれたのは響だった。
「僕に何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
改めて問いかけられ、衣都は自分の気持ちに焦点を当てた。
(言いたいこと……?)
そんなのたくさんあるに決まっている。
――ずっと響が好きだった。
チョコレートが好きだと言うと、響が嬉しそうにしてくれるから大好物になった。
妹みたいな存在だと思われていても、ずっとそばにいたかった。
でも、二人きりで会えるのも、これが最後かもしれない。
他の誰かのものになってしまうなら、その前にいっそ……。
衣都はありったけの勇気を振り絞った。
「私……響さんに結婚して欲しくない……」
「どうして?」
「ひ、響さんのことが好きだから……!」
積年の想いを伝えると、響は豆鉄砲をくらった鳩のようにキョトンと目を丸くしていた。
平素から自分のペースを乱すことのない響にしては珍しい。
しかし、それも一瞬のことだった。