財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「それで、衣都はどうしたいんだ?」
いつも通りに戻った響は驚いているというよりは、むしろ面白がっているような節さえあった。
自分がどうしたいのか、衣都の意志ははっきりしていた。
気持ちを伝えたらそれで満足なのか?
いいや、違う。
響への恋心はたった数秒で心の整理ができるような、そんな簡単なものではない。
「お願いです……。今日だけでいいから……恋人みたいに愛して欲しいの」
「……後悔しない?」
ハラハラと目尻からこぼれた涙を、響が指で拭ってくれる。
頬を包む手のひらのぬくもりを、今日だけは自分のものにしてしまいたい。
衣都は覚悟を持ってコクンと頷いた。
後悔なんてしない。
叶わぬ初恋の最後を彩る綺麗な思い出がどうしても欲しかった。
こんなこと頼んだら軽蔑されるのではないかと不安に襲われたその時、ふわりと響のトワレの匂いが鼻をくすぐった。
「……全部、衣都にあげるよ」
優しく抱き寄せられた衣都はゆっくりと目を瞑り、響の背に手を回し、その温もりに酔いしれた。