財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
◇
衣都の望みを叶えるべく、二人は響が手配したホテルを訪れた。
朝までの数時間を過ごすにはもったいないほどの上等な客室に案内され、細部に渡る心配りに申し訳なさで一杯になる。
部屋に入り扉が閉まると、壁に身体を押しつけられ、顔の両側に手をつかれた。
「こういうことは初めて?」
「はい……」
気まずくなって、そっと目を伏せる。
学生時代はピアノばかりで、男性と付き合おうと考えたこともなかった。ましてや、響以外の人なんて。
「嬉しいな。初めての男が僕なんて」
「あ……」
ふいに顎を持ち上げられ、ちゅっと軽くキスを落とされる。
(どうしよう……。嬉しくて泣きそう……)
唇が重なったかと思うと、今度は息もつかさぬ勢いで口の中を舌でこじ開けられる。
吐息の中に車で食べたチョコレートの香りが混じる。
「甘いね」
「あ、ごめんなさい。響さん、甘いの苦手なのに……。口をゆすいで……」
「衣都がこうして食べさせてくれるなら好きになれそうだ」
衣都が言い終わらないうちに、響は再び唇を塞いだ。
先ほどよりも艶めかしい、舌の動きで口内を蹂躙され、胸の膨らみが響の手によって悪戯に形を変えられていく。
響に触られていると思うだけで、ひどく興奮した。
カーテンが開け放たれた窓ガラスにはひと組の男女が情欲に駆られている様子が映っていた。