しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「あ、もしかして彼氏さんと先約があったの?ごめんね、急に誘っちゃって!」
「か、か、彼氏!?」
これまで男性と縁がなかったせいなのか、彼氏という単語に過剰に反応してしまう。
誤解を解かなければと焦りに焦る衣都の代わりに響が答えた。
「残念ながら『彼氏』ではないんです。ね、衣都」
勘違いされては今後の仕事に支障が出る。
衣都は響に同意するようにうんうんと何度も力強く頷いた。それが間違いだった。
「僕達、結婚するんです」
響は小首をかしげ満面の笑みを浮かべながら、恋仲だと見せつけるように衣都の肩を抱いた。
しまったと思った時にはもう遅かった。
気づいた時に響が仕組んだ巧妙な罠に引っ掛かった後だった。
「え、そうなの……!?わあ!おめでとう!」
突然の結婚宣言にも関わらず、樹里は手を叩いて喜んだ。響の言葉をすっかり信じこんでいる。
「ち、違うんです!わ、私はまだ……っ!」
このまま思惑通りに進ませるわけにはいかないと、衣都は懸命に声を張り上げた。
「衣都先生ってばそんなに照れなくてもいいのに〜!他の人には黙っておくから、ね?」
樹里は察しが良かった。しかし、それは衣都の真意とは真逆の方向にだった。
ガクンと身体の力が抜けていく。
(わざとね……!)
ニコニコと愛想よく笑っている響を横目で睨む。
誰もを魅了するチャーミングな笑顔も今の衣都には一ミリも効かない。
響がわざと『彼氏ではない』と衣都の相槌を誘発し、結婚を匂わせたのは明らかだった。
これ以上、余計なことを言い出す前にこの場から離れなければ。