しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
ところが、数十分後。
衣都は女性に人気のとあるブランドショップの前に立っていた。
「響さん?あのう……食事に行くはずでは……?」
「うん。行くよ」
「……なら、どうしてお洋服屋さんに?」
「ドレスコードがあるんだ」
ドレスコードがあるから、わざわざ新品の服を買いにきた?
クローゼットの中にはまだ一度も着たことがない洋服が眠っているというのに?
呆気に取られていると、強引に手を引かれる。
ショップの中に足を踏み入れた衣都は、先を歩く響に大人しくついていった。
「どれにする?衣都ならどれも似合いそうだね」
「あの……」
響は次々と服をあてては、ハンガーラックに戻していった。
「好みのものがあったら言ってね。遠慮しなくていいよ」
「でも……」
「君に服をプレゼントする楽しみを僕から奪わないでくれよ?」
店員を呼び、あれこれ服のことを尋ねる響は実に楽しげだった。
そこまで言われたら、着ないわけにはいかない。
「どうですか……?」
試着室から出た衣都はおずおずと尋ねた。
響のお眼鏡に適ったのはラベンダーカラーのレースワンピースだった。
ふわりと揺れるシアーと、幾重にも重ねられたレースの甘い雰囲気が衣都の華奢な身体つきにも合っていた。
「綺麗だよ、衣都。本当に……」
響は衣都を手放しで褒め称え、右手を取ると手の甲にキスを贈った。
歯の浮くような甘いセリフと、気品のある仕草に頬が熱くなっていく。
響にとっては社交辞令でも、衣都には盆と正月が一緒に来たような特別感があった。