しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
無事に洋服を購入し車に戻ってくると、衣都は改めて行き先を尋ねた。
「これからどこに行くんですか?」
「行けば分かるよ。楽しみにしていて」
響は内緒と言わんばかりに、人差し指を唇の前に立てた。
ドレスコードがあるというからわざわざ着替えたのに、車はどんどん街中から離れていった。
(この先にレストランなんてあるのかしら?)
運転免許を持っていない衣都には、車がどこへ向かっているのか、さっぱりわからなかった。
「着いたよ」
ようやく目的地と思しき場所に到着しても、いまいちピンとこない。
しかし、車から降り立つと、ここがどこかすぐにわかった。
湿気をたっぷり含んだ冷たい風が頬を撫でていく。
……潮の香りがする。
衣都が連れてこられたのは、湾岸エリアにある客船ターミナルだった。
駐車場からエレベーターに乗り、施設の中に入っていくと、大きな窓から埠頭に係留されている大型クルーズ船が見えた。
「うわあ……!」
「四季杜が所有するクルーズ船のひとつ、『ノクターン号』だよ」
響は得意げにクルーズ船の名前を読み上げた。