財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

(なんて大きいの……!)

 どんなに頑張っても船全体を視界に収めきれない。
 日暮れを過ぎ、クルーズ船には柔らかな光が灯されている。
 既に乗船が始まっているのか、桟橋には多くの人が集まっていた。

「足元が揺れるから気をつけて」

 他の人に倣って乗船しようとすると、響が腕をくの字に曲げ、肘に掴まるよう促してくれた。
 出発時刻になると汽笛と共に船が動き出していく。
 クルーズ船の中は四階建てだ。
 一階はロビー、二階と三階はレストランフロア。四階にはバーラウンジとオープンデッキ。
 二人は支配人だという壮年の男性に、三階にある個室へと案内された。

「素敵……」

 クルーズ船の中から見る都心の風景は、眩く光り輝いていた。
 都心と湾岸エリアを繋ぐ橋の下をくぐり、工場夜景で有名な工業地帯を抜けていく。
 出発して三十分ほどすると、食事が運ばれてきた。
 旬の食材を使った前菜、濃厚な赤ワインのソースがかかったブランド牛のステーキ。黄金色の泡が弾けるシャンパン。
 船の上とは思えないほどのご馳走だ。

「美味しいです」
「よかった」

 衣都はシェフ自慢の料理の数々に舌鼓を打った。

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