財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 夜景の見える個室でたっぷりコース料理を堪能した後は、船内を散策することにした。

 せっかくクルーズ船に乗ったのなら探検だってしてみたい。
 お土産屋さんをのぞいてみたり、トレードマークだという細工の見事な螺旋階段の前で写真を撮ってもらったりした。

「実は衣都に見せたいものがあるんだ」

 響はそう言うと、すっかり船内を満喫していた衣都を二階のレストランへと誘った。
 クロスが敷かれたテーブルがいくつも並び、大勢の人がディナーを楽しんでいる中、響はレストランの最奥へと進んでいく。
 入口から見た時にはわからなかったけれど、あれは……。

「グランドピアノ……?」
「外洋に出ないクルーズ船でグランドピアノがあるのは珍しいだろう?」

 レストランの奥には、木目の美しいチョコレート色のグランドピアノが鎮座していた。
 船の上では滅多にお目にかかれない立派なピアノで本当に驚いてしまう。

(どんな音色がするのかしら?揺れる船内で演奏するなら、慣れていないと出来ない?)

 ピアノを目の前にし、ついそわそわする。
 そんな衣都の反応を見た響が支配人と交渉をしてくれた。

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