財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「わ、私……そんなに笑ってませんでした?」
いつも通りにしていたつもりだったのに、響に余計な心配をかけていたのだろうか。
「やり方を間違えたのかと思った。律には『感性がずれてる』って怒られたよ。でも、僕には衣都の喜ばせ方がよく分からなくて……。あとはもう『あれ』に頼るしかないのかなって……」
「チョコレートですか?」
「馬鹿のひとつ覚えだろう?」
響は自虐的に笑うと、腰に回した腕により一層力を込めた。
「ずっと……こうして衣都を抱きしめてみたかった」
鼓膜を震わせる甘い囁きに、衣都は耳をそばだてた。
響と触れ合っている箇所が燃えるように熱かった。
「あの……『ずっと』って……?」
「君を愛している――。僕が傍にいて欲しいと望むのは衣都だけだ」
今し方耳に入ってきた言葉が信じられなくて、衣都はゆっくりと後ろを振り返った。
響は悲しそうに顔を曇らせながら衣都に訴えた。
「衣都がなにも望んでいないことはよくわかっている。でも、どうか僕と結婚してくれないか?」
結婚して欲しいと懇願する響に、なにを伝えればいいのか言葉が見つからなかった。
自分がいつまでも二の足を踏んでいたせいで、彼に辛い想いをさせてしまった。
……答えなど最初から分かりきっていたのに。
衣都はぐっと顎を上げ、暗く翳ってしまった響の瞳を見つめた。