財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

「私、こんな状況になってしまった今でも……あの夜、響さんに身を任せたことを後悔してないんです」

 それは衣都の嘘偽らざる本心だった。
 現状に戸惑う気持ちはあっても、あの夜をなかったことにしたいとは思わない。
 あの日に戻ることができたとしても、きっと同じ選択をしたに違いない。
 
「響さんの『初めて』が、私でよかった――」

 衣都は常識も遠慮もかなぐり捨てて、響の胸に飛び込んだ。
 もう逃げない。
 自分の気持ちからも、響の気持ちからも、目を逸らしたりしない。
 ただの憧れなら、傷つかないでいられた。
 衣都に足りなかったのは夢を現実にするための覚悟と勇気だ。

(響さんが『愛してる』と言ってくれるなら……私は……)

 もっと強くなる。
 誰に非難されても、この恋を死ぬまで貫き通してみせる。

「私、響さんと結婚します」
「絶対に幸せにするよ――」

 二人は額を寄せ合い微笑み合うと、一足早い誓いのキスを交わした。


< 62 / 157 >

この作品をシェア

pagetop