財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「衣都、扉が開けられないよ?」
廊下と部屋を隔てる玄関扉の前まで来ると、響は衣都をからかうように嗜めた。
「ご、ごめんなさい……」
衣都は正気に戻り、パッくと響から離れた。羞恥でかあっと頬が熱くなる。
今日は大目に見てもらえたが、今後は気をつけなければ。いくら両想いが嬉しくても、やりすぎは禁物だ。
「あのっ!今日はとっても楽しかったです!おやすみなさい」
衣都は気まずさを隠すべくお礼の言葉もそこそこに自室に下がろうとした。
ところが、その場を離れようとした瞬間、廊下の壁に手をついた響に行く手を阻まれた。
「響、さん?」
「紳士でいられるのも……ここまでかな?」
響は自虐的に笑い、衣都の肩に頭をそっと乗せた。
前髪からチラリとのぞく瞳はあの夜と同じ、熱量を孕んでいる。
「あのしきたりのせいで、今まで見守ることしかできなかったんだ。もう抑えがきかない」
切羽詰まった掠れた吐息が首筋にあたり、目をぎゅっと瞑る。
ずっと、響が好きで。響だけを思い続けた十年間だった。
何をしてもこの恋は叶わないと最初から諦めていた。
響も同じような想いをしていたのだと思うと、切なさが溢れる。