財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
4.蜜月の果てに
「明後日?」
「ああ。少し急だけど、都合をつけてもらえるかい?」
「はい、わかりました」
帰宅するなり響はコートを脱ぎながら、秋雪との面会について淡々と告げた。
(とうとうやって来るのね……)
衣都は瞬く間に表情を曇らせた。
わざわざ呼び出すということは、結婚について何らかの決定が下されるに違いない。
四季杜財閥の総帥である秋雪の決断ひとつで、この幸せは容易く壊されてしまう。
もしも響と引き離されたら……と思うと、とても心穏やかではいられなかった。
「不安?」
預かったコートを持ったまま立ち尽くしていると、響から尋ねられる。
そんなことないと首を振ろうとして、ふと思い直す。
「少しだけ……」
衣都は己の弱さを小さく笑い、正直に不安を訴えた。
きっと、強がりを言ったとしても、響には見抜かれてしまう。
変に取り繕うのはやめることにした。怖がりは決して悪いことではない。自分の弱さを誤魔化すのではなく、認めなくてはいけない。響のために強くなると決めたのだから。
響はそんな衣都の変化をつぶさに感じ取っていた。
目尻を下げながらネクタイを緩めると、ソファに座った。
「衣都、おいで」
膝をポンポンと叩かれ、座るように促される。
横向きでおずおずと腰を下ろすと、響の長い指で顎を持ち上げられた。