財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「申し訳ありません、衣都様。奥様は衣都様に会いたくないと仰せでして……」
「そうですか……。わかりました」
四季杜の屋敷を訪れた衣都は、家令からの返事を聞き、がっくりと肩を落とした。
門前払いされるのも、これで何度目かわからない。
時間を見つけては綾子の元に参じているが、未だに会うことすら叶わなかった。
(どうしたら私の話を聞いてくださるのかしら……)
綾子との関係を修復する方法がわからないまま、時間だけが無為に過ぎていく。
時間が解決するということもあるだろうが、一体いつまで待てばいいのだろう。
梅見の会までは、二ヶ月を切っている。
気持ちばかりが急いていくが、今度こそ綾子を置き去りにはしたくない。
衣都は気持ちを立て直そうと自分のワンルームマンションに行き、黙々と愛用のアップライトピアノを弾いた。
響のマンションにはピアノがない。そのため、衣都は練習のために教室のピアノか、自分のものを使用していた。
このマンションもそろそろ引き払う手続きをしなくてはいけない。けれど今は、引っ越しをしている心のゆとりはなかった。