財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 休憩なしで三時間ほどピアノと向き合うと、今日の練習は切り上げ、帰宅の途に着いた。
 待ち合わせ場所へ向かう前に、着替えをするつもりだった。

「うわ……。すごい……」

 響のマンションで暮らしてから、まじまじとクローゼットの中を眺めたのは初めてだった。
 買い揃えてくれたと聞いていたが、衣都の想像以上だった。
 どれもこれも一流ブランドの最新作ばかりだ。
 これまで衣都は、自分のアパートから持ち込んだ洋服しか着用してこなかった。
 リトミック教室では身体を動かすこともあるし、しがないピアノ講師が派手なブランド品を普段着として身に着けるのははばかられた。保護者からの心象も悪い。
 馬子にも衣装な気がするが、響と結婚すると決めたからには、こういうものにも慣れていかなければならない。
 せっかくの機会だから思い切り着飾ろう。きっと響なら褒めてくれる。
 でも……。
 
(どれを着たらいいのかしら?)

 衣都はすっかり困ってしまった。
 試しに二、三着ほど試着してみたが、どうしても姿見の前で首を傾げてしまう。
 スタイリスト用意しただけあって衣都の好みではあるものの、どの服もしっくりこなかった。
 他に良さそうなものはないかと、ハンガーラックにかかっている服を掻き分けていくと、あるワンピースが目に留まった。
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