財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

(チョコレートみたい……)

 柔らかみのあるチョコレートブラウンに心惹かれて、ハンガーを手に取る。
 その直感は大当たりだった。
 キュッとすぼまったウェスト、大きく広がった裾にはアクセントのフリル。
 シンプルだけれど女性らしいシルエットの、このワンピースが衣都はとても気に入った。
 服が決まったら、あとはアウターと小物だ。
 ワンピースに合わせるように首元にフェイクファーのついたホワイトコート。くすみレッドのハンドバッグ。足元はリボンが踵についたパンプスを選んでいく。

(うん、いいかもしれない!)

 コーディネートが決まると、俄然ディナーが楽しみになってくる。
 鼻歌を歌いながら髪を巻いていると、スマホに響から連絡が入った。

 『七時に並木通りの時計広場で』

 待ち合わせに遅刻しないように、衣都は時間に余裕を持ってマンションを出発した。
 もし、早めに着いてしまっても、カフェで時間を潰せばいい。そのために律からの宿題もちゃんと持った。
 三日後はクリスマスということもあり、街には緑と赤のモールやサンタやトナカイのステッカーで賑やかに飾りつけが施されていた。
 日が暮れたら並木通りは煌びやかなイルミネーションで、さぞや綺麗だろう。
 幸せが溢れる心躍る風景に、衣都の心に蝋燭のような明かりが灯っていく。

「いいご身分ね」

 ――それは、浮かれた気分に水を差すような、低く恐ろしい音色だった。

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