財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「あなたは……」
衣都を待ち伏せていたのは、発表会の日、綾子と一緒にいた――尾鷹紬だった。
仁王立ちで立ち塞がる彼女は、ギロリと衣都をひと睨みした。
「貴女のせいで私がどんな思いでいるか……!想像すらしていないようね?」
「ご、ごめんなさい……」
彼女はロイヤルローズの口紅を引いた唇を醜く歪め、衣都への嫌悪感を隠そうともしなかった。
衣都は身を縮こまらせ、ひたすら謝るしかなかった。
紬が言っていることは正しかった。
衣都はこの瞬間まで、自分の身に降りかかった『結婚』に気を取られ、梯子を外された紬を慮る気持ちが抜け落ちていた。
「響さんの周りをうろちょろしているだけなら、まだ許してやったのに……。まさか、貴女ごときに横取りされるなんて……。本当に、最低な気分よ!」
紬がヒールをかき鳴らしながらつかつかと歩み寄って来たかと思うと、突然、目の奥に火花が散った。
……頬を叩かれたのだ。