財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる
「何とか言いなさいよ!この泥棒猫!」
「ごめんなさい……」
何を言っても言い訳にしかならないと、衣都も分っていた。
非難を甘んじて受け入れる覚悟で謝罪し、紬を見据える。
そんな超然とした態度が気に入らなかったのか、激高した紬は持っていたハンドバッグを容赦なく衣都にぶつけた。
何度も繰り返される暴力に、歯を食いしばり痛みに耐える。
やがて気が済んだのか、攻撃がおさまっていく。
鬱憤を晴らした紬は、肩で大きく息をしていた。
「何が『しきたり』よ!くだらない!」
紬は衣都の胸倉を掴み、勝ち誇ったようにこう言った。
「貴女、『初めて』だっていう彼の言葉を馬鹿正直に信じているの?」
「え……?」
「四季杜財閥の御曹司よ?『初めて』なはずないじゃない。証拠もあるわ」
紬はせせら笑うと、衣都の目の前にいくつかの写真を突き出した。
それは、隠し撮りと思われる写真だった。
ホテルの廊下だろうか。
客室の中にまさに入らんとしているひと組の男女が写っている。