財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 女性は美しく着飾り、男性にしなだれかかるようにして寄り添っていた。
 女性を見下ろす端正な横顔は――響のものだった。
 同じような写真が、相手や日付を変えて何枚も撮られている。

「古臭いしきたりなんて、誰も守っていないわ。結婚相手なんて、いかにも扱いやすそうな頭の悪い女なら誰でも良かったんでしょう?それとも可哀想な身の上が彼の同情を買ったのかしら?」

 言い返そうとしたが、声が喉に張りついて上手く出てこない。

「この事実が周りに知られて恥をかく前に、自分から『結婚をやめる』と言い出した方が身のためよ?」

 とくとくと親切心を語った紬は、衣都の絶望した表情に満足したのか、蔑むような薄笑いを浮かべながらその場から立ち去っていった。
 よろよろとふらついた衣都は、街路樹に手をついた。
 見せられた写真が瞼の裏に焼きついて離れない。
 彼女の台詞が棘のように突き刺さって、いつまでも抜けない。

「痛っ……」

 時間が経つにつれて、手酷く叩かれた頬と、バッグを何度もぶつけられた上半身に痛みを感じ始める。
 いや、それ以上に心が痛かった。

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