財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 衣都はなんとか気力を振り絞り、一旦マンションに戻った。

「腫れてる……」

 鏡の前に立ち、自分の顔を改めて確認すると、頬が赤く腫れあがっていた。
 冷蔵庫から氷を取り出し、頬を冷やす。
 
(響さんに行けないって連絡しなきゃ……)

 こんな顔で出掛けたら、十中八九何があったのか聞かれてしまう。
 ハンドバッグからスマホを取り出そうとしたが、手が震えてうっかり床に落としてしまった。
 スマホを拾い上げようと身体をかがめると、涙が一緒に零れ落ちた。

(他の女性とホテルに行ったってどういうこと?私達、あのしきたりのおかげで結婚できるんじゃないの?)

 響は相手が誰だろうと、自分の意に沿わぬことは絶対にしない。
 女性とホテルに行ったのは響の意思に他ならないということだ。
 『初めて』でなければ、衣都と響が結婚する大義名分が失われてしまう。
 
(響さんは嘘をついていたの……?)

 ただでさえ降って湧いたような結婚なのに、これでは何が正しいのかわからない。
 衣都はぎゅうっと自分の身体を抱き締めた。
 
「信じてもいいんですよね……?」

 衣都の心には暗雲が立ちこめていた。

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