可憐なオオカミくん



「葵……くん」

「葵でいいよ。くんっていうの嫌でしょ?」

「男子を呼び捨てにするのは、ハードルが高すぎるから。くん呼びを頑張ります」

「あはは。がんばるんだ? そんなに難しいなら、『ちゃん』でもいいよ」

「そ、それは。さすがに、葵くんは、もう男の子だから」


 さすがに男の子を、ちゃんづけには出来そうもない。
 

「あ、葵くん。さっきの話だけど。男恐怖症を治してほしいなんて言ってないよ? 私はこのままで……」

「いいの? 本当に。前の学校では、友達が守ってくれたんだよな。でもさ、大人になったらどうするの? 社会に出て辛い思いするのは一華だよ?」


 確かに、葵くんの言う通りだった。言い返す言葉が見つからない。

 分かっている。分かっているけど、無理なんだもん。

 わたしだって、好きで男恐怖症なわけじゃない。意識とは別に身体が拒否してしまうんだ。


「大丈夫。僕に任せて?」

 きゅるんとした瞳で私の顔を覗き込む。
 その距離はさっきより近くなる。

「ほらね。半径30センチもクリア。僕なら大丈夫でしょ? だって、僕かわいいもんね♡」

「……」

 そう言って笑った笑顔はいつもよりも、少しだけ意地悪に見えた。

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