可憐なオオカミくん



 次の休み時間のことだった。
 隣の席の葵くんに、違和感を覚える。

 あれ。
 葵くんは上下運動着を着ている。

 今朝は確かに制服を着ていたのに。そのために男だと認識してしまったのだから。
 
 今日は体育の授業ないのに、どうして着替えたんだろう?頭の中が疑問符でいっぱいになる。

 わが校の運動着は男女ともに紺色でデザインも一緒だ。

 とにかく可愛い葵くんが運動着を着ていると、デザインが女子と同じなので、女の子にしか見えない!
 自然とわたしの口角も上がってしまう。
 
「運動着だと、葵くん。女の子にしか見えないね!」

 思いがけず弾んでしまった声を受けて、一瞬驚いた顔をしたか思えば、次の瞬間には優しい笑顔を浮かべていた。

「そう? それならよかった」
「(どくんっ)」

 まただ。また心臓が跳ねた。
 なんだろう。葵くんの笑顔は……なぜか心臓に悪い。

 

 それからというもの、葵くんは毎日運動着を着ていた。

 なぜ制服を着ないのかと聞くと「僕は、なに着てもかわいいでしょ?」なんてかわされて、まともな返答は聞けなかった。


 かわいいことには違いない。
 少し気にはしていたものの、時間が経つにつれて気にしなくなっていた。



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