可憐なオオカミくん
林間学校一日目。
一日目の行事はハイキング。
班のみんなと協力しながら、ゴールを目指すそうです。
わたしは体力に自信がない。
みんなの足を引っ張らないように、頑張らないと。
先生の説明では、道は整備された道のりで、普通に歩けば1時間程度の距離だそうだ。
険しい山を登山するわけではないので、徒歩による体力づくりと、仲良く話ながら楽しむのが目的らしい。
わたしの班は5人。穂乃果ちゃんと葵くん。そして葵くんと仲良しな大吾くんと、恭平くんだ。
「よーし。怪我なくゴールするぞ!」
「おー!」
「あ、一華ちゃんは、なにかあったら、すぐに葵に言うんだよ?」
大吾くんと、恭平くんは、なぜかわたしによそよそしい。馴れ馴れしくされるよりは、わたしにとって、とても助かるけど。
きょろきょろと辺りを確認しながら、わたしの元にそろりと大吾くんが近づいてきた。
「ひっ、」
男性恐怖症の症状のせいで、短い叫び声が漏れる。
「ごめん、ごめん。あのさ、大丈夫だよ。俺ら一華ちゃんには近づかないからさ」
大吾くんが、周りに聞こえないように小声で囁いた。
なんとか耳に届く距離。ただ、半径50センチ以内の危険ゾーンに侵入してきたので、身体が嫌でも反応してしまう。鳥肌がたち、蕁麻疹が出そうになった瞬間。大吾くんは言葉を続けた。
「葵がさ、一華ちゃんに近づいたら殺すって、脅してくるからさ。怖いのなんのって」
「へ? こ、ころ、ころす?」
大吾くんが驚くような発言をしたので、蕁麻疹も鳥肌もスッと引っ込んでしまった。
殺す? あんなにかわいい葵くんが、そんなこと言うかな。にわかには信じられなかった。
「葵が、こんなに嫉妬深いなんて知らなかったよ」
「え、し、し?」
葵くんが嫉妬?
――なんで?
頭の中には疑問符が渋滞している。