可憐なオオカミくん
「おい、」
今まで聞いたことのないような、どすの聞いた低い声が降り注いだ。
見上げると、そこにいたのは天使だった。
でも、心なしか怒っているような……。
葵くんの眉間にはしわが寄っていて、今まで見たことのない表情をしていた。その表情は、きっと。いや、絶対怒っている。
「お前、大吾。一華に近づくなって言ったよな?」
「うわ、怒んなよ。ただ話していただけだって。な? 一華ちゃん?」
「一華って呼ぶな。立花さんだろ」
「悪かったってー!」
ギロリと大吾くんに睨みを利かせると、ぐるっとわたしの方を振り向いた。
そして、いつもの天使のようにかわいい笑顔を浮かべる。
「一華、大丈夫だった? 何か言われた? 触れられてない? あ、消毒する?」
「え、あ、」
早口でまくし立てる言葉に頭が混乱してしまう。
「とりあえず。除菌しよっか。まって。僕除菌シートも、除菌アルコールも持ってきているから」
「ま、待って。大丈夫だよ。距離が近かったときはびっくりしたけど。とくに、身体に異常はないよ?」
「よかった。あんまり心配させないで?」
心底ほっとしたような表情を浮かべたと同時に、わたしの頭にぽんと、優しい感触が伝う。
一瞬のことで理解が出来なかった。
頭に残るわずかな感触。
「あ、あ、葵くん! い、いま。今なにを……」
「あ、ごめん。一華が可愛くて。つい。でも、大丈夫でしょ? 僕、かわいいから♡」
目を潤ませて、大きな瞳をくしゃっとさせて笑みを浮かべた。
その破壊力に、不可抗力で頭が上下に頷いた。
うん。葵くんはかわいい。