可憐なオオカミくん
5
全生徒がゴールすると、次に待っていたのは夕食作りだった。夕食のメニューは全班共通でカレーだ。
日が暮れ始める中、炊飯場に集まり、各班ごとに協力して夕飯作りを開始する。
葵くんの顔を直視できなくて、穂乃果ちゃんのそばにぴったりついて離れなかった。
「一華。葵となにかあったでしょ?」
「え、え、」
図星をつかれて、分かりやすく動揺してしまう。
「分かるよー。ってかさ。葵がこんなに誰かに執着すんの初めて見たんだよね」
「執着? どういうこと?」
「葵はあの可愛い見た目でしょ? とにかくモテたのよ。クラスの大半が葵を好きになってさ。あ、私は葵を好きにならなかった少人数の方だから」
「葵くん。モテてたんだ」
そうだよね。あんなにかわいいんだから。
「モテてから、告白とかもされてたけど。誰とも付き合ってなかったなー。だから、一華のために制服を着ないで運動着で登校してきたことにびっくりしたんだ」
「え、わたしのためだって、知ってたの?」
「その時は気づかなかったけど。一華に男性恐怖症のことを聞いた時だよ!頭の中でつながった感じ」
「葵くんは……ほんとうに優しい」
「葵にはさ。拒否反応出ないの?」
「拒否反応は出ないの。その代わり……心臓が爆発しそうなほど、ドキドキするの! だから、葵くんには新たな拒否反応が出てるのかなって」
「……」
穂乃果ちゃんはきょとんとして固まっている。
わざとらしくため息を吐いて「まじかー」と頭を抱えた。
わたし変なこと言ったかな?
穂乃果ちゃんはわたしの両肩をつかんで、ゆっくりと言葉を放つ。
「一華。いい? よく聞いてね?」
「は、はい」
「それは、恋です」
「鯉です?」
「違う。恋です」
「こ、い?」
「そう。らぶ」
わたし、葵くんを好き、なの?
男性恐怖症のわたしが?
「葵くんが……好き?」
ぽつりと吐いた言葉に頬が熱くなる。
わたし、葵くんが好きなんだ。
言葉って不思議だ。言葉にした途端、「好き」の気持ちが溢れてくる。
心では受け止めきれないほどの「好き」が溢れてくる。