可憐なオオカミくん
その後のことは正直よく覚えていない。
 料理なんて手につかないくらい、心はふわふわしていたので、わたし以外のメンバーがカレーを上手に作ってくれたことは間違いない。
 
 男性恐怖症のわたしが男の子に恋をする日が来るなんて、考えてもいなかった。


 テーブルの離れた席に座る。葵くんを思わずじっと見つめる。

 遠くから見てもかわいい。
 だけど、今のわたしには誰よりもかっこよく見える。


 じっと見つめ過ぎたからか、葵くんとパチッと目が合った。瞬時に逸らしてしまう。


 ドキドキ。
 好きと認めた後は、目が合っただけでドキドキが加速していく。

 遠く離れた距離でこんなにドキドキするなんて。至近距離で話したら、心臓がもたないよ。


 この日食べたカレーの味は覚えていない。
 みんなで作って、大自然の中で食べるカレーは美味しいはずなのに。
 わたしの心はふわふわと、違う世界に旅立っていた。

 
 夕食が終わって、後片付けをしている時も、葵くんから話しかけてくることはなかった。
 寂しいような。少し安心したような。
 だって、今話しかけられたら、普通に話せる自信がないよ。

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