可憐なオオカミくん
「がはは。おまえ、ボール変な方に蹴るなよ」
「わりーわりー」
野太い声に肩がビクッと震えた。
社宅の隣には小さな公園がある。公園で遊んでいる男の子たちの声だろう。遠くの方から笑い声と共に聞こえてきた。
近くで聞こえたわけでもないのに、わたしの身体は硬直してしまう。
そう。わたしは男の子が苦手だ。
苦手なんて言葉では表せない。
だいきらい。
心と共に身体も拒否してしまう。
男恐怖症なのだ。
以前の学校ではわたしの男嫌いが認知されていたので、友達が協力してくれた。
男子が隣の席にならないように先生も配慮してくれたし、廊下を歩く時も両側を友達が守ってくれた。男子と接触する機会をとことん消してくれたんだ。男子たちも気を使ってわたしに話しかけてくる人はいなかった。
優しい周りのみんなのおかげで平穏が保たれていたのに。
「新しい学校は……誰もいない」
吐き出した声は風に乗って消えていく。不安が心を押しつぶすようだった。
自然と涙が込み上げてくる。