可憐なオオカミくん
「えっとね。話してもいいかな?」
「うん」
それから、私が男嫌いなことを話した。途中でまた涙が込み上げてきて。
泣きながら話した言葉は、へたくそだったと思う。
だけど、そんなわたしの話を「うん、うん」と相槌をうって聞いてくれた。
「そっかー。話してくれてありがとう。男恐怖症なら、新しい学校に行くの怖いよなー」
「うん。このことを誰も知らないから。助けてくれる人もいないし……」
「……今は大丈夫なの?」
「へ?」
「平気?」
「う、うん。大丈夫に決まっているよ! だって、あなたは女の子だもん」
「……」
きょとんと首をかしげて見つめてくるので、訳も分からず見つめ返した。
あれ。わたし変なこと言ったかな。
「……まあ、平気ならよかったよ。男の子が近くにいると、どんな症状が出るの?」
「えっとね。近くに来ると、全身にぶわーって鳥肌がたって、酷い時は全身に蕁麻疹が出ちゃうんだ」
「それは……大変だね」
「そうなの。半径50センチ以内に男の子がいると、身体に異変が起き始めるんだ」
「50センチって、今のこの距離くらい?」
そう言って指をさしたのは、わたしと彼女の距離間だった。
「そうだね。こんな近い距離に男の子がいたら、失神しちゃうかも」
「そ、そうなんだ」
「でも、あなたは女の子だから平気! あ、名前聞いてもいい?」
「葵」
「葵ちゃん! 綺麗で可憐でぴったりな名前だね。わたしは一華」
「一華だってかわいいじゃん」
「へへっ。美少女にそう言われると嬉しいな」
なんだか無性に触れたくなって、すぐ横にいた葵ちゃんの腕にぎゅーっとしがみ付いた。
それはわたしにとっては自然なスキンシップだった。前の学校の友達とはよく手を繋いだり、腕を組んで歩いていたから。
細いと思った腕は以外にも固めの質感だった。
ん? 葵ちゃんは意外に筋肉質?
「ちょ、なに。いきなり!」
絡めた腕を勢いよく払われた。なぜか葵ちゃんの顔が真っ赤に染まっていく。
「ご、ごめん。わたし、友達と腕組んで歩いたり、手を繋ぐのが普通だったから。つい……」
「あー。ご、ごめん。びっくりしちゃっただけだから。泣かないで?」
葵ちゃんは慌てた様子で、俯いたわたしの顔を覗き込む。慌てていても、ひたすらに可愛くて羨ましい。
身体が勝手に葵ちゃんの腕に絡みついたということは、わたしは葵ちゃんが好きだ。絶対に友達になりたい。わたしの頭の中のレーダーが過敏に反応している。
「葵ちゃん。あのね、わたしこの町に友達いなくて……友達になってくれないかな?」
「……」
何か考えるような顔をして黙り込んだ。
わたし何かまずいこと言ったかな。初対面で友達になってほしい。なんて変なこと言っちゃったからかな。
失言をしてしまったと、後悔の念が押し寄せる。
「い、いいよ……」
「ほ、ほんとう?」
「じゃあ、一華のこと守ってあげる」
桜が舞い散る春の日。
新しい街で新しい友達が出来た。
その子の名前は葵ちゃん。
桜の花びらが舞い散る中、優しく微笑む彼女の笑顔は、今まで出会った女の子の中で一番可愛くて、可憐だった。