つぐむちゃん、口を開けて。


 わたし達は中学三年生のときにお付き合いを始めた。

 卒業式の日に千鶴くんから告白されて。わたしはそのときだって、ただ頷いただけだった。


 嬉しい。わたしも好きだった。好きになってくれてありがとう。


 言葉はぐるぐると頭の中を巡る。

 だけど、声に乗せることがどうしてもできない。

 考えれば考えるほど、もっと適切な言葉があるんじゃないかとか、正しく伝わらないんじゃないかとか。

 余計なことばかり考えてしまうから、わたしはいつになっても千鶴くんにきちんとした想いを告げることができていなかった。


 次こそは、と何度決意したことだろう。

 千鶴くんが大好きです――その一言を口から出せばいいだけなのに。



「ごめん、勉強するんだったね」

「……ううん」



 ふるふると首を振る。

 一応、学校帰りに千鶴くんの家に寄ったのは勉強という名目だった。

 とはいえ名目は名目。勉強以外のことをしたって、別に構わない。


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