クセのある御曹司を助けたら「運命だ」とか言われました。



 どういうわけかあれから住吉さんの対応メインで割り振られていた。当たり障りなく過ごしたかったのに住吉さんが退院するまで私が担当となると自然と仲も深まっていく。私達の間柄は親しく話せるくらいにはなっていた。


 業務の合間合間に住吉さんは仕事の話もしてくれた。最近大きめの新しい土地を仕入れることができたことや、以前に増して従業員も仕事に力を入れてくれていること。私の知らない世界を魅せてくれているような気持になった。


「元々ある会社を継いだことには変わりはないんだけど、傲慢者にはなりたくないって親父達を見て思ってた。俺は今頑張ってくれている従業員を大切にしながら、従業員より頑張れるヤツになりたい」


 住吉さんは顔がカッコイイからか一見して見るとチャラそうに見えるが、仕事にとても熱意とやりがいを持っている。


 住吉さんは違う、私と全然違う。
 仕事に何のやり甲斐も見いだせていない私は、住吉さんみたいに楽しく仕事のことは話せない。

 ましてや、借金を返済できなければこの先お先真っ暗。

 自分のことなど到底語れなかった。そんな住吉さんと顔を合わせるのも今日で最後。


「それでは住吉さん、お荷物の準備できてますか?」


 住吉さんは寂しそうな、なんとも煮えきれない表情をしていた。


「また倒れたら看護してくれる? 俺、羽賀さんの連絡先教えてもらえなきゃ何回でも倒れるかも」

「馬鹿なこと言わないで下さい。お仕事がんばってくださいね」


 現実に戻れば住吉さんは私のことなんて忘れる。私も、住吉さんのことは忘れて、また、押しつぶされそうな日々を送っていく。

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