クセのある御曹司を助けたら「運命だ」とか言われました。
住吉さんは身を乗り出して私の手を両手でぎゅっと握りしめた。そして、鼻が付いてしまいそうな距離で
「運命だ。結婚してください」
急に結婚したいと、プロポーズをしてきた。
絶対に公害してはいけないカルテ上の個人情報を思い出す。
住吉澄人さん、32歳。大金持ちの一族が経営する財閥系の不動産会社の企業グループ、現社長。とても凄いお方だ。
加えてこの整った顔面。芸能界で働いていると言われてもおかしくないし、からかわれているようにしか思えない。というか、他の看護師にももしかしたらこんなことをして遊んでいるのかもしれない。それが、財閥ゆえの偉いお方の遊び方なのかもしれない。
「無理です、私明日生きてるかすら分からないので」
頭が混乱して、医療従事者として言ってはいけないことを口にしてしまっていた。
――ああ、終わった。心の中でそう思っていると、
「じゃあ俺も一緒に死にます」
冗談だと微塵も思えない顔で私に食って掛かる。
患者様に「死ぬ」などと一番言わせていけないことを言わせてしまっている。私は看護師失格だなと思いながら、住吉さんに諭す。
「あなたが死んだら大勢の人が困ります!」
「じゃあ結婚して。俺を生かすも殺すもあんた次第だよ」
…………なんで?
どうしてそうなるの?