財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

5 心の読めない御曹司

 翌日も、悠賀様の部屋の清掃へ向かう。
 昨日渡された金色のカードキーをかざし、悠賀様の部屋へ。

 悠賀様はおらず、がらんとしている。
 私はさっそく、清掃作業を始めた。

 *

 ベッドメイキングを終え、水回りを洗い上げていく。
 バスタブ内を拭き上げていると、突然背後から声がした。

「調子はどうかな、依恋さん」

 ピクリと身体が震えた。
 恐る恐る振り返る。

 爽やかな笑みを浮かべる、銀色の貴公子がいた。

 彼はまだ清掃の終わっていないタイルの床を、カツカツと音を鳴らしながら革靴でこちらに歩いてくる。
 私はバスタブの中で、子羊のごとく怯える。

「驚いたよ、君の客室清掃。全て僕の使いやすい通りにそろえて合って。さすが、客室対応部が太鼓判を押すわけだ」

 彼は言いながらバスタブの横まで来ると、そのまま膝を折る。
 首を傾げてクスリと笑い、私の髪にそっと触れた。

「ひぃっ」

 ビクリと身体が大きく震え、心臓が止まりそうになる。

「ごめん、羽毛がついていたから。あの布団も、もう寿命かな……」

 そう言ってつまんだ白い小さな羽毛を、彼はじっと見つめる。
 はっとした。

「申し訳ございません!」

 私は彼の手からそれを奪い、慌ててポケットに仕舞った。

 ――清掃に従事する人間が、頭についた“ゴミ”を取ってもらうだなんて。

 彼はキョトンとして、それからフフッと笑った。

「真面目だね、依恋さんは」

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