財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

10 怖いものも、あなたがいれば

「立花財閥の未来に、幸あれ。……と言いたいところだけど、難しいでしょうね」

 悠賀様に肩を抱かれたまま、エレベーターへ向かう。
 まだ後ろで騒いでいる叔父様に、悠賀様はそう言うとエレベーターに乗り込んだ。

「あ、あの、大丈夫なのですか?」

 エレベーターが閉まり、はっとして悠賀様に問う。
 後ろでクスクスと笑う声がして、振り返ると、お見合い相手が乗っていた。

「あ、私は最初から桜堂財閥の傘下に入る予定でしたので、お気になさらず」

 彼はまた一人でクスクスと笑いだす。
 すると示し合わせたように、悠賀様もふっと笑った。

「あ、えっと、何が何だか……」

 会話についていけず、一人だけあたふたしてしまう。

「依恋は何も心配しなくていい。きっと後に、君も全てを知ることになるからね。それよりも」

 悠賀様は不意に私の肩を、ぐっと抱き寄せた。
 ドキリと胸が鳴り、頬がありえないほど熱くなるのを感じる。

「依恋を連れて行きたいところがあるんだ。一緒に来てくれるかな?」

「は、はい!」

 声が上ずり、赤面してしまう。
 悠賀様もお見合い相手の男性も、それでまたクスクスと笑いだす。

 穴があったら入りたい。
 そう思ったけれど、悠賀様の肩を抱く力が強まって、やっぱりこの人の隣にいたいと思った。

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