財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

3 呼び出しの理由

 足になじまないほどのふかふかな、赤い絨毯の敷かれた廊下。
 その先にあるのは、廊下にそって両側に扉が二つずつ、突き当りにひとつ。

「えっと……」

 おろおろしていると、一番手前の扉が開く。
 中から初老の男性が出てきて、こちらに向かって腰を折った。

「氷室依恋様で、ございますね?」

「はい……」

 震えるような声で答えると、男性は口角を上げる。
 その笑みが無機物のように見えて、背中がぞくりと粟立った。

「どうぞ、こちらへ」

 促され、一度深く呼吸をした。
 尻込みしたい気持ちに抗って、一歩ずつ扉に近づく。

 やがて開いた扉の前までたどり着くと、中も見ずに頭を下げた。

「失礼いたします」

 緊張で肩は吊り上がり、微かに震えている。

「どうぞ、入って」

 悠賀様の声色は優しい。
 けれど、私は動くことができずに固まった。

「そんなに怖がらないでよ。ほら、顔を上げて」

「は、はい……」

 私は、恐る恐る顔を上げた。

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