働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~

プロローグ

 神聖国エグザグラムには、七人の聖女がいる。
 彼女たちは、王都にある中央神殿で暮らしていて、日々神に祈りを捧げ、神の声を聞き、民に伝えることを生涯の喜びとして生きるのだ。

 そして、厨房の床に倒れているこの少女──ブランシュ・アルベール、十八歳は、最年少の聖女であり、たった今、前世の記憶を思い出したところだ。

(なにこの記憶)

 ブランシュは薄紫の長い髪を二つに分けて緩く結んだ、琥珀色の瞳を持つ美少女だ。
 しかし、前世のブランシュは、咲良(さくら)という名の日本人で、黒いボブカットのさえない見た目の三十歳だった。

 貧乏くじを引きまくりの人生を送っていた咲良の最期は、交通事故だ。職場である田舎の飲食店からの帰り道、かわいがっていた野良猫を轢きそうになり、よけた拍子に車が電信柱に激突して生涯を終えた。
 ずっとひとりものだった咲良は、死ぬときまでもひとりだったのだ。

《なにこの記憶》

 ブランシュが最初に思ったのと同じ言葉が、別の人間の声で頭に響く。

「誰?」
《君の記憶、おもしろいね。車ってなんだい?》

 声はするのに、姿は見えない。

(まさか、幽霊じゃないよね?)

 ブランシュはちょっとぞっとして、あたりを見回した。しかし、特に誰もいない。

(そもそもどうしてこんなことになったんだったかしら)

 前世を思い出すまでに起こったことを、ブランシュは目をつぶって思い返してみる。
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