働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「待たせたな」

 ダミアンだ。後ろにマリーズが控えている。

「兄上、これはいったいどういうことです?」
「領民も含めて、しっかり話をしたいと思ってな。お集まりいただいた領民諸君。少し下がって座ってもらおうか。君たちは証人だ。私とオレール、どちらが領主となるかを決めるための」

 一気に周囲がざわつく。オレールはブランシュを守るために、彼女の腰を抱き寄せた。

「……兄上、それは今ここで決める問題ではない。そもそも、父上が亡くなった時に行方をくらませていたのは兄上だ。兄上が正式な後継者だったとしても、有事に対応ができなかったからこそ、俺の元に知らせが届き、父上は俺に継がせると宣言したんだ。今さら兄上が戻って来たとしても、この座を譲る気はない」

 弟がはっきり言い返してきたのは意外だったのか、ダミアンは一瞬黙った。
 しかし、すぐに気を取り直したように顔を上げる。

「しかし、お前は領主教育を受けていないだろう。見よう見まねで今はうまくいっているようだが、ジビエ料理だっていずれは飽きられる。今後も続けて行けると思うのか?」
「ブランシュがいてくれるなら、俺はなんでもできる。ずっと自信が持てなかった俺を、彼女が支えてくれたんだ」
「彼女は神託で嫁いできたのだそうだな。『暮れの土地の辺境伯と結婚せよ』とだけ言われたのだろう? だとすれば相手は俺だったかもしれないわけだ」

 ダミアンは嫌らしい視線をブランシュに向ける。

「違います。リシュアン神が言ったのは、オレール様のことで間違いありませんわ。神はすべてを見通されています。代替わりも神託のときにはわかっていたはずです」

 ブランシュが決然と言い放つ。それを後押しするように、水晶もきらりと光った。

「ダミアン様、いい加減にしなされ。もとはと言えば、あなたが行方をくらましたのが悪いんだ」
「そうだそうだ! 実際、この土地を立て直してくださったのは、オレール様とブランシュ様だ。俺は、オレール様が領主のダヤン領が好きだ。今さらダミアン様に我が物顔でいられるのは嫌だ」
「俺もだ」
「私も」

 集まった領民たちは、一様にそう叫び出した。
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