働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
* * *

 ブランシュは感動していた。ここにきて八か月。最初はあんなに活気がなく、生活そのものに絶望していた領民たちが、オレールのために立ち上がってくれた。それがこれ以上ないほどうれしい。

「それに、ブランシュ様は聖女だ。聖女様がオレール様を選んでいるのだから、ダミアン様の出る幕はないだろう。聖女に愛されているだけで、領主の資格なんて十分だ」

 誰かの声に、ダミアンがにやりと反応する。

「ほう。ではこの聖女のことをみんな信じているというのか?」
「当たり前だ。神の声を聞き、神の言葉を伝えてくださる聖女様だ。俺たちは彼女が神と話しているのを何度も見ているんだぞ?」
「それが、嘘だとしたら?」

 ダミアンは妙に自信ありげに言い、ブランシュのことを睨みつける。軽蔑とも似た視線は、あまり向けられたことのないブランシュに恐怖を抱かせた。

「……マリーズが見たそうだ。あなたが連れているその猫。本当は化け物なのだそうだな」

 ルネの尻尾がピンと立ち、警戒心をあらわにし始めた。

「みゃっ」
「なにを言って……」

 ブランシュはルネを守るように抱き上げた。ルネは不満げな顔をしたまま、ダミアンを見つめている。

「さあマリーズ、見たままを言うんだ」

 前にずいと押し出され、マリーズは気まずそうにブランシュを見やる。

「マリーズ?」
「ぶ、ブランシュ様。私、見てしまったんです。その猫が、化け物に変身するところを。それを、ブランシュ様が、笑いながら見ていたところを」

 恐らく、ルネが人間のときの姿やリシュアンの魔獣姿になってくれたときだ。あれを、見られていたのか。
 ブランシュが動揺したのを、領民も皆、感じ取っていた。
 途端に、オレールやブランシュを取り巻く空気が、がらりと変わる。

「マリーズは彼女付きの侍女だ。その彼女が見たというのだから本当なのだろう。どうだ? 化け物を子飼いにしている女性が本当に聖女なのか? 大体、本当に神託が聞けたかどうかも怪しいものだ。俺たちには聞こえないんだからな。それさえも捏造かもしれない」
「兄上!」

 怒りに満ちた声が、神殿内に響く。オレールだ。普段は穏やかに話すからそこまででもないが、見た目が怖いので、怒りをまとった彼はものすごく怖い。
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