働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「主を愛せよ、罪深き人々よ……」

 ブランシュが歌い終わってからも、人々の疑心にまみれた空気は変わらない。
 ルネは相変わらず化け物の姿でそこにいる。彼は誰のことも襲おうとはしていないが、人々はそこまで思い至っていないようだ。

「……確かに、ルネはその姿を変えることのできる、特殊な生き物です」
「はっ、化け物を飼っていると認めたな!」

 ダミアンが声高に叫ぶ。
 先ほど、ルネは腹が立ってきたと言っていたが、ブランシュも同じ気持ちだ。
 どうして、姿が変わるだけでこんな言われようをしなければならないだろう。

「お前は知っていたのか? オレール!」

 ブランシュが彼のほうを見上げると、オレールも驚愕の表情でルネを見ていた。
 ブランシュは、それが一番ショックだった。誰も信じてくれなくても、オレールだけが信じてくれれば強くなれた。
 でもオレールが信じてくれなければ、どう頑張ったらいいのかわからない。

「ぶ、ブランシュ」

オレールの問いかけに、ブランシュは一度首を振って、息を吸い込んだ。

「この姿は、リシュアン神の元の姿です」

 今、リシュアンの姿として人々い知られているのは、美しい男の人の像だ。ルネの人間のときの姿に少し似ている。
 それが魔獣だなんて、信じられないだろう。

「リシュアン様は、かつては魔獣だったそうです。世界が終わりを迎えそうになった時、建国の賢者ルネ様と共に、この国を守るための結界の一部になったのです。それから、リシュアン様がみんなの生活を守るために力を尽くしてくれたことを、疑う人はいないでしょう? 見た目が怖いからなんなのです。ここでやってきたことを見てあげてください。リシュアン様はずっと人に尽くしてくれました。私がここにきて、領民を助けたいと言った時、たくさんの助言をくれました。だから、皆が幸せになれたと思っていたのに」

 ブランシュの瞳から、涙が零れ落ちる。

「私のことは、信じてくれなくても構いません。でも、リシュアン様はずっと民のために私に神託をくださいました。見た目なんかではなく、行動を見て判断してください」
《ブランシュ、行こう》

 ルネは、魔獣の姿のまま、ブランシュを抱き上げた。

《大事な聖女を、こんな悪意まみれの所に置いておけないよ》
「ま、待ってくれ」

 オレールが慌てて魔獣の腕を掴む。しかし、ものすごい力で払われてしまった。

「ブランシュ」
「ルネ。やめて、オレール様に怪我をさせないで」
《君を守るに値しない男に、君はやれないよ》

 ルネは、一般の入り口とは逆の西側の通路から外に出て、そのまま、すごいスピードでルネは森までひとっとびする。

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