働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 駆け出してきたと思った次の瞬間、ブランシュはオレールの腕に包まれた。

「ブランシュ! よかった……無事で」
「オレール様。……捜しに、きてくれたのですか?」

 ブランシュの目には涙が浮かぶ。

《よかったな。ブランシュ》

 魔獣姿のルネが耳をピクピク動かしながら、ブランシュにだけ聞こえる声を放つ。

「オレール様、領民のみんなは」
「君のことを待っている。俺が迎えに行くと言ったら、皆快く送り出してくれた」
「嘘……」

 領民たちは皆、魔獣姿のルネを恐れていたはずなのに。
 オレールはブランシュの体に回した腕の力を少し緩め、ルネの方を見た。
 魔獣姿の彼は、オレールよりも背が高く顔も怖いが、彼は恐れることなく対峙している。

「ルネは、魔獣なのか?」

 改めて問われて、ブランシュは首を振った。

「ルネは、聖典に出てくる建国の賢者です。今は思念体となっていて、魔素を使って自在に体を作ることができるそうです」
「なんだって?」
「ルネ、猫の姿になってくれる?」
《いいよ》

 ルネはひと鳴きすると、その体を猫のものへと作り変えた。白色のふわふわのかわいい猫は、以前とまったく変わりがない姿だ。

「本当に……変身できるんだな」

 オレールは瞬きを繰り返した。自分の見たものが信じられないというように。

「こうなった以上、秘密にしておく方が余計な疑念を生むと思いますので、私の知る真実を全てお話しますね。ルネは中央神殿ではネズミの姿でいたんです。ある日、私は転んで頭を打った時に、前世の記憶を思い出しました。すると、私の頭の中を覗いて興味を持った彼が、私に話しかけてくるようになりました。この猫の姿は、私の前世で見た猫の姿なんです」
「待て、前世?」
「ええ。ルネは見たこともない世界に興味を持って、それで私と共に行動するようになりました」
「道理で、猫にしては賢すぎると思ったんだ」
「ルネから、この国の成り立ちを教えてもらいました。聖典に書かれているのとは違う、真実の歴史を。神殿でも言った通り、リシュアン神は、元は魔獣なんです」

 ブランシュは、とある国がリシュアンを洗脳し世界を滅亡近くまで追い込んだこと。それを救おうとしたルネが、リシュアンを水晶化させたこと、リシュアンの意識は国を守ることを受け入れ、ずっと協力していてくれたこと。

「リシュアン様がしていたことは、神が行うことと同じです。元が魔獣だということは関係ないと私は思っています。この国は、ルネとリシュアン様がいなければ、そもそも成り立たなかったのですから」
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