働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
彼は彼で、ずっと気を使いながら苦労してきたのだろう。
「では、これからは私に気軽に話しかけてくださいね。神託以外にも、普通の話でも」
『うん。ありがとう、ブランシュ』
こうして話していれば、魔獣だなんて思えない。少し年上のお兄さんくらいのイメージだ。
(ある意味、神様らしさは感じられなくなっちゃったけど、でもリシュアン様のことは好きだわ)
ルネのことも納得できたわけではないが、実際に目の前にいて人間の言葉をしゃべり、誰にも伝えたことのないブランシュの前世について言い当てたのだから信じるよりほかにない。
ブランシュがひとり納得していると、ルネが突然膝の上に乗ってきた。
《僕たちのことはこれで納得できた? じゃあさ、次はブランシュの前世の話聞かせてよ》
楽しそうに耳をピンと立てている。しかし、夜もずいぶん更けてきた。聖女の朝は早く、規則正しい暮らしをしているブランシュの体はそろそろ睡眠モードに入っている。
「その話は明日でいいですか? 私、そろそろ寝ないと」
《えー》
《ルネ、邪魔をしては駄目だよ》
ルネは不満げだが、リシュアンがとりなしてくれる。そうこうしている間も、ブランシュはあくびが止まらない。
「朝、目覚められないと大変なので、寝ます」
《僕、まだ話したりないよー!》
ブランシュがベッドに入った後も、ルネからは非難の声が聞こえたが、やがて諦めたように枕もとで丸くなった。
そのかわいらしい姿に、うっかり手を伸ばしそうになる。
《なに? ブランシュ、一緒に寝てほしいの?》
「ち、違いますっ」
からかうように言われて、ブランシュはぷいとそっぽを向いた。まったく心臓に悪い猫だと思う。
(でも本当に建国の賢者なのだとしたら、私、今、すごい人と話しているんだわ)
全然そんな気はしないけれど、奇跡というものは実際に目の前にするとこの程度なのかもしれない。