働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 気を取り直して立ち上がり、ブランシュは思い出したようにオレールの横顔を見つめた。

「オレール様は、昔、中央神殿に来てくださったことがあったのですか?」
「……さっきの歌でばれたか。歌声が聞こえたから、つい、一緒に歌ってしまった」
「うれしかったですよ。私、昔、あなたの歌声に救われたことがあったのです。緊張で声が震えて、聖女でいる自信がなくなりそうだった時、あなたの歌声に勇気をもらいました」
「……なっ」

 今度はオレールの顔が真っ赤に染まる。

「俺は、……ただ、君が頑張っていたから、一緒に歌うことで少しでも力になれたらと思っただけだ」
「そんなに昔から私のことを知っていてくださったなんて思いませんでした」

 オレールが正面を向く。ブランシュは心臓がバクバクしてきた。
 オレールの胸もとにある水晶は、なぜだか少し赤い色を放ち、ルネはそっぽを向いて離れたところを進んでいる。

「結婚相手が君だと聞かされて、うれしさ半分、悔しさ半分だったんだ。俺はずっと君が聖女として成長していく姿を見てきた。なのに、その翼を折るのがまさか自分だなんて思わなくて、だから……最初はつっけんどんな態度をとった。済まなかった」

 あの時の嫌そうな表情の理由が知れて、ブランシュはむしろほっとした。

「今は、どう思われていますか?」
「そうだな。君が来てくれて感謝している。俺と一緒に問題に立ち向かってくれて、俺と領民の間をつないでくれた。そして、……なにより、俺を愛してくれた」

 オレールの瞳に熱がこもる。シンパシーというものだろうか。彼の言いたいことが、伝わってくるような気がした。きっと彼は自分と同じ気持ちを抱えている、そう思った。

(オレール様に、触れたいわ)

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