働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「私は、神殿にいるのがつらかったんです。働くことは好きだけれど、皆から搾取されている感覚がずっとありました。でもここに来てからは、自分がやりたいという気持ちで、いろんなことができています。だから毎日が楽しくて、オレール様のことも大好きになりました」

 にっこりとほほ笑めば、オレールの喉がごくりと動いたのが見える。顎を掴まれ上を向かされ、気が付けば唇を奪われていた。

「んっ……」

 うまく息もできない。離してくれたと思ったらまたふさがれる。やがて顎に添えられていた手は背中に回り、ブランシュの動きを制限していく。

「ん、あっ」

 呼吸がしたい。それを伝えたいだけなのに、喘ぎ声に似た声しか出せない。ブランシュが必死に彼の胸を手で押すと、ようやく力を緩めてくれた。

「早く君を本当の妻にしたい」
「!」

 ブランシュの顔も真っ赤になる。まさか、あの奥手なオレールがそんなことをはっきり言ってくれるなんて思わなくて。

「……け、結婚するんですから、いいんですよ?」
「はっ?」
「あ、いやあの。私の前世では、そんな感じなんです。その、結婚するまで純潔でいなきゃいけないとかそう言うことはなくて」
「え? まさか……」

 オレールがじっとお腹のあたりを見つめてくるので、ブランシュは手で押し返した。

「もちろんまだ処女ですよ! でも、オレール様なら、結婚もするのですし……んんっ」

 再び唇をふさがれる。熱い息が、口の中に吹き込んできて朦朧としてくる。

「頼むから煽らないでくれ。正気でいられそうにない。前世がそうでも、今は俺と、この世界で生きているんだ。だから、この世界のルールにのっとって、世界一の花嫁にしたい」
「……オレール様」

 オレールの言葉が、うれしかった。

「はい」
「では、今日の所は帰ろう」

 なんとなく互いに名残惜しさを抱えつつ、オレールのエスコートを受け、ブランシュも動き出した。ふたりの会話が一通り終えたことを確認して、レジスも近づいて来た。

「御無事でなによりです。ブランシュ様」
「心配をかけてすみません」
「うわっ」

 オレールが突然叫び出した。

「どうしました?」
「水晶が、熱い」

 見ると、赤みを帯びた光を放ち、発熱している。

「リシュアン様? どうしました?」
《大変だ。小神殿が燃えている》
「え?」
「どうした? ブランシュ」

 オレールが心配そうに覗きこんでくる。

「オレール様、小神殿が燃えているそうです。早く戻って消火しないと」
「なんだと?」

 オレールは慌てて屋敷の方向を見る。しかしここからでは遠くてよくわからない。

「レジス、馬を」
「はい!」
「オレール様、私も行きます」
「しかし危ないぞ」
「私が一緒に言った方が、リシュアン様から対処法を聞くことができます」
「それもそうか」

 オレールはブランシュを自分の馬の前に乗せ、走り出した。

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