働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
* * *

 半時ほど前、ダミアンは失意のまま、荷物をまとめていた。

「ダミアン様」
「マリーズか」
「手伝います」

 ダミアンは荷造りをマリーズに任せ、立ち上がる。
 まさか領民が、あの状態になっても、オレールを支持するとは思わなかったのだ。

「俺のなにが悪かったというんだ」
「ダミアン様に才能があるのは、だれしもわかっていたはずなのに」

 マリーズも、納得は言っていなかった。子供の頃、同年代にとって、ダミアンは英雄だった。その幻想を、彼女もまたずっと捨てられずにいる。

「ダミアン様、これからどうなさるのですか?」
「どうするもこうするも、ここにはいられないようだからな。また旅にでも出て、見識を深めてこようと思う」
「……でも、その資金はどうするつもりで?」
「屋敷から持っていくに決まっているだろう?」

 さも当然のように、ダミアンが言う。けれど、追放処分を受けたダミアンに、誰が支援するというのだろう。

「それは、無理では? オレール様がお許しになるはずがありません。今のこの土地の財産は、ブランシュ様が提案された事業で得たものがほとんどですから」
「だがここは俺の実家だ。俺の支援をするのは当然ではないか」

 マリーズも、じわじわとダミアンが受け入れられない理由がわかり始めてきた。
 ダミアンは、いつまでもちやほやされていた神童時代から抜け出せていないのだ。元領主が最初にダミアンにきつく当たったのは、今から四年ほど前、本格的にダミアンに領主業務を任せようとしていたころだ。
 一年も経たないうちに、ダミアンは修行に出ると言って逃げ出した。行き先さえ告げず置手紙一つ置いて、すべての責任から逃れようとしたのだ。

「ダミアン様自身の蓄えはないのですか?」
「俺のか? ないわけではないが、日々の生活ですぐ消えてしまうからな」

 そしておそらく、生活力もない。よく四年もひとりで生きてこれたものだ。

「そうだ。……マリーズ、お前も来るか?」
「え?」
「最後まで俺を信じてくれたのはお前だけだ。俺ももういい年だし、望むなら妻にしてやってもいい」

 ダミアンが初恋の人だというのに、マリーズは背筋がぞっとした。ダミアンに対して、そんな感情を持ったのは初めてだ。
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