働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「いえ、私は、……母もここにいますし」
「しかし、お前も今回のことで立場がないだろう。俺の妻になれば、きっと楽をさせてやるぞ」
(……放浪の旅に出るのに、 本当にそう思うの?)
昔のマリーズなら、ダミアンからのプロポーズに、有頂天になっただろう。しかし今、得体の知れない恐怖がマリーズを襲う。
(私から、搾取するつもり……?)
理不尽な主張で、彼の生活の面倒を見させられる。
そしてそれは、おそらく正しい直観だ。
「なあ、マリーズ」
「いやっ、私は行きません!」
伸ばされた手をはじき返し、マリーズはおびえたままダミアンを睨む。
「マリーズ?」
「だ、ダミアン様は、まず信頼を得ないといけません。オレール様に謝って、領主補助になるのはいかがですか? 能力はダミアン様の方があるのですから、きっとすぐに必要な人材として……」
「ふざけるな!」
壁が強く叩かれる。音に怯え、マリーズは自分の体が震えるのを感じた。
「お前までそんなことを言うのか。俺は、次期領主だと言われ続けてきたんだ。奪ったのは、オレールの方だろうが。大体、親父だってどうかしている。死を前にして弱気になったのか、後継者をこんな土壇場で変えるなんて」
話が通じない。ようやくマリーズはそれを理解した。
じりじりと、気づかれないように後ろに下がり、部屋から出ようと試みる。
しかし、それはすぐに、ダミアンに気づかれた。
「来い、マリーズ。使用人のお前が、俺の妻になれるなんて光栄だと思わないか?」
ダミアンはまるで荷物を掴むように、マリーズの腰を引き寄せた。
「いやっ、離してください」
「ああ、うるさいな。少し黙っていろ」
首のあたりを叩かれ、マリーズは前のめりに倒れる。視界が真っ暗になり、意識が遠くへと消えていった。