働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 マリーズの意識はそう遠くなく戻った。

(ここ、どこ?)

 あたりはもう暗くなっていた。ぱっと見、ここは小神殿内だ。神官たちの姿は見えないが、礼拝室近くの彼らの待機場所のようだ。

(オレール様と一緒に、屋敷の者も神官たちもブランシュ様を探しに出て行ったはずだわ。今は屋敷にも神殿にも人が少ない……)

 だから誰もダミアンの行動に目を光らせていないのだろう。

「くそっ、大したものがないな。水晶もなかったし、どうなっているんだ?」

 ダミアンが小声で悪態をつきながら、戸棚の中をあさっているようだ。
 どうやら、明かりがついていないのは、盗み行為を働いているからのようだ。

「もういい。このくらいあれば当座はしのげるはずだ」

 再びマリーズの元に近づいてくる。マリーズは迷い、とりあえずは寝たふりをすることにした。
 ダミアンはまず、背中にマリーズを背負った。そして、荷物が詰まったカバンを持ち、立ち上がる。
 神殿の北側にある出口までくると、通路を照らすために設置されていたランプを取り、小神殿の壁に投げつけた。

「俺を受け入れない土地だから、災害が起こるんだぞ」

 割れたランプからはオイルがしみ出し、炎が一気に大きくなる。

「……ひっ」

 思わず声を出してしまった。ダミアンは肩越しにマリーズを振り返る。その間に、目の前の壁にみるみる炎が広がっていった。

「やあマリーズ、起きたのか。ここはもう終わりだ。新しい世界へ行こう。ジビエの事業をそこで始めてもいいかもしれないな」
「それは、ブランシュ様が始めたものです」
「ああ。でもこの領の事業だ。元領主の息子たる俺が継承することに、なんの問題もないだろう?」

 問題がありすぎだ。
 マリーズは自分の見る目のなさを、今更ながらに恥ずかしくなった。
 ブランシュは新しい事業を、皆で一緒にやろうと言った。みんなのために、アイデアを出すことを惜しまなかった。
 口で『慈善事業は嫌だ』なんて言っていたけれど、彼女がやっていたことは、いつだってみんなのための行動だった。
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