働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「私、ブランシュ様を誤解していました。魔獣を従えていようが、あの方は領の利益を奪うことはなさらなかった。むしろダミアン様の方が、ダヤン領を駄目にしてしまいます。私ももう、あなたが領主にふさわしいとは思えません。早く火を消してくださ……きゃっ」

 突然、マリーズはダミアンに床に投げ飛ばされた。

「ふん。お前だけは見所があるかと思ったのに。……もういい。お前もいらない。ここで神殿と共に燃え尽きるんだな」
「え……、ちょ」

 炎はどんどん大きくなる。熱さにたじろぎ、マリーズは火から距離を取る。その間に、ダミアンは出口から出て行ってしまった。

「待って!」

 強く扉をたたくも、開きそうにない。どうやら、なにかを扉の前に置いた様子だ。

「嘘でしょう? このままじゃ死んじゃう」

 マリーズは焦り、まずは水を取ってこようと考える。
 小神殿内の構造は頭に入っている水場はここより西側にあるのだ。
 しかし、一度は気絶するほど叩かれたせいか、動くとめまいした。

「火を、消さなきゃ」

 掃除道具が納めてある場所まで来て、バケツを見つけ出す。それに水を汲み、もう一度火元に向かおうとして、マリーズは膝をついた。
 思ったより煙を吸い込んでしまったのだ。

「ごほっ、ごほっ」

 目の前がかすむ。これも自業自得なのかもしれないと、マリーズは思った。

「聖女様を、信じなかったから」

 倒れたマリーズの瞳に、うっすら涙が浮かぶ。
 結局のところ、マリーズの目を曇らせたのは嫉妬だったのだ。
ずっとこの屋敷で、領主一家に尽くしてきた自分にはできなかったことを、簡単にやってしまったこと。そして、自分には全く気付くことのできなかったオレールの良さを、引き出した彼女に。

(私も素直に、ブランシュ様を称賛すればよかっただけなのに)
「……ごめ、な、さい」

 マリーズは消火に向かうのを諦め、水晶の間に入った。この台座が結界の一部だということは、辺境伯家に仕える者ならなんとなく聞いている。
 バケツの水を全身にふりかけ、台座を抱きしめる。
 屋敷の使用人が少ないとはいえ、じきに火が回っていることには気づくだろう。その時に、せめて台座だけでも無事なままにしたかったのだ。

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