働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 やがて火は消えたらしく、先ほどよりも人が行きかい始めた。
 オレールも戻って来て、状況を整理している。

「ブランシュ、大丈夫か?」
「……火事の詳細を、リシュアン様にお聞きします」
「ああ。頼む」

 ブランシュが水晶に手を当てて祈ると、リシュアンは声で、その詳細を教えてくれた。

「マリーズが、台座を守ってくれたそうです」
「そうなのか」
「火をつけたのは、……ダミアン様ですね。神殿にいたのは、神官様の私物を狙ってのことのようです」

 オレールは唇を噛み締めていた。しかし気を取り直したように顔を上げると、「兄上はどこに逃げた?」と問いかける。

「……街道、南への街道みたいです」
「そこなら、一本道だ。見つけるのも容易いだろうな。レジス、手配を頼む」
「わかりました」

 自分の兄弟を捕らえることがつらくないわけがない。

「捕縛でよろしいのですよね」
「……当たり前だ」

 それでも彼は騎士時代、罪を犯した人間に情けはかけなかった。まして、屋敷も火事で半壊し、こちら側の被害だって甚大だ。
 せっかく経済的に上向いてきたというのに、また一からやり直しだ。

「みゃあ」
「ルネ。国の結界は大丈夫なの?」
《台座が無事だったから、なんとかなりそうだね。マリーズは好きじゃないけど、これを守ったことだけはお手柄だよ》
「では、私は治療のお手伝いをします」

 ダミアンを捕まえるのは、ダヤン領の警備兵たちの仕事だ。
 燃えたところが、小神殿の北側と本館の北奥なので、ブランシュは西側にある入り口に近い部屋を、救護室として使うよう指示する。
 屋敷内で怪我をした人を集めて、介抱するのだ。
 ブランシュはいつの間にか、皆が自分の指示に従っていることに驚いた。

「みんなは私のこと、信じてくれるの?」

 ひとしきり手当を終えてから聞いてみると、その場にいた人間は皆一様に笑顔を見せる。

「私は、ブランシュ様がダヤン領のために頑張っていたのを知っていますから」
「魔獣を飼っているのもなにか理由があるんでしょう?」
「魔獣じゃないわ。この世界を救ってくれた賢者なの。信じてもらえるかはわからないけれど、きちんとみんなにお話しするわね。聞いてもらえるかしら」
「もちろんです」

 自分のことを、信じてくれる人がいる。なんて幸せなのだろうとブランシュは思った。

《やれやれ、人間ってやつは疑ったり信じたり面倒くさいよね》
《ルネだって昔は人間じゃないか》
《僕は天才だからさ。自分のことだけ信じていた。他人からどう思われたってかまわなかったんだよ。だけど、まあいいもんだよね》

 嬉しそうに笑うブランシュを見ながら、ルネはそうつぶやいた。
 その日、リシュアンも穏やかな光を放ち続けていた。
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