働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
翌日、ブランシュはいつもどおり六時に起床する。
聖女の一日は奉仕活動から始まる。身を清め、場を清める。特に、水晶の間の掃除は聖女がするものだと決まっていた。
たいてい二人組で行い、今日の当番はブランシュと筆頭聖女のドロテだ。
まだ眠っているルネを起こさないようにそっと部屋を出ると、廊下の向こう側からドロテが手招きしている。
「ドロテ様、どうかなさいました?」
「ブランシュ。悪いのだけど、腰が痛くて。今日の水晶の間の掃除、任せても構わないかしら」
「えっ……またですか?」
前回の清掃当番のときも、ドロテは調子が悪いからとブランシュに代わりを頼んだのだ。またも、ひとりでやらなければいけなくなってしまう。
「あっ、いたた。駄目かしらねぇ、ブランシュ?」
腰を曲げたドロテから上目づかいで見つめられ、ブランシュは言葉に窮する。そもそも、一番格下の聖女であるブランシュが、筆頭聖女に逆らうわけにもいかない。
「……わかりました」
別に掃除が嫌なわけじゃない。むしろ好きな仕事だ。それでも、押し付けられた感じが嫌で仕方がない。
水晶の間に向かう途中で、今度は第六聖女のキトリーとすれ違った。
「あら、ブランシュ。ちょうどいいところで会ったわ。今日の午後の礼拝室当番、変わってくれない? 私、月のものが来てしまったの」
礼拝室当番とは、大勢の参拝客が訪れる礼拝室で、聖句を読み上げ、讃美歌を歌う仕事だ。
こちらも当番制なのだが、キトリーはこれが苦手なのか、ことあるごとにブランシュに頼んでくる。
(でも月のものって言われると断りづらいのよね)
「そうなのですか。……仕方ありませんね」
そう、仕方ない。格下聖女であるブランシュには、仕方がないことが多すぎる。
(今までは、こんなにモヤモヤせずに受け入れられていたはずなんだけどな)
昨日、前世の記憶を思い出してしまったからだろうか。無性に胸がざわついていた。